これを申し込んだとき、まさか私が当たると思ってなかった。仕事終わりの電車で、ふとメール通知を見たら当選の文字!今年のライブに行けなかった私への、神様からの贈り物やったのか?
キンプリメンバーでも初の外部舞台。そんな記念すべき作品を観れるなんて!神くんのパフォーマンスはドリボでみてきたけど、ミュージカルとはまた違った100%演技の神くんを生で観れるのがめちゃくちゃ楽しみやった。
そうして楽しみにしてた舞台『葵上』『弱法師』。観たあとの衝撃が深すぎて、書いても書いても感想を書ききれません。乱文長文やけど、どうかこの感情を残しておきたい。
そして今回は、事前の予習が楽しさを倍増させてくれたので、まずはこれから観に行く人向けに、ぜひ読んでほしいものを紹介します。
予習に読んでほしいもの
観劇当日までに私が読んだのはこのあたり。
ちなみに私は「三島由紀夫だれ?」「近代能楽集なに?」状態からのスタートでした…
近代能楽集(新潮文庫)
『葵上』『弱法師』の台本、セリフがそのままに書かれています。これはぜひとも読んでほしい!神くんがこのセリフをどう表現するのか、想像が膨らんで楽しい。それに舞台を観ないうちから台本を読むと、いかにこの演目が難しいか実感できます。『弱法師』で話題の神くん一人語りも、どうやってこんなの体現できるん?!となるよ。これを実感したうえで神くんの演技を見てほしいんです。凄いから。ほんと凄いから。
考察サイト系
更に踏みこむなら、『葵上』『弱法師』の考察サイトを読むのもオススメです。特に『弱法師』は、神くん演じる俊徳の心情が非常に難しい。舞台をみるだけでは到底理解だけできないので、私は考察をいろいろ読んでから行きました。
そうすると、神くんの演技の意図が少しわかった気がして面白かった。私のまとめ記事もぜひご参考にしていただければと思います。
予習したかぎり『葵上』が中山美穂さんの見せ場、『弱法師』が神くんの見せ場かなと推測。特に弱法師の神くんの演技にはめちゃくちゃ期待してました。
総括(ネタバレなし)
そうして迎えた当日。私は11/12(金)の参戦。
2階席4扉B列の席だった。
つまり2階席の前から2列目。舞台全貌をほぼ正面から観れて、観劇するには良い席。表情まで観るにはやや遠いので、時々オペラグラス使ったけど肉眼でも楽しめた。
そもそも東京グローブ座が収容人数702人の小さな劇場なので、こぢんまりしてました。空気感を共有できる感じが凄く良かった。
胸は高鳴る一方だったのに、こんな日に限って仕事がばたつき会社PCを持ちこむ羽目に…トホホ。会場で鬼の形相しながらPC叩いてたヤツがいたら、それは私です。毎回これなの何とかならんかね。
でもひとたび照明が落ちると、一気に舞台への世界に引き込まれた。
もうね、圧巻でした。
まず2つの演目それぞれで神くん、中山美穂さんの声色も雰囲気も全然違う。
『葵上』は、神くんの色気を存分に楽しめる演目でした。
神くんが演じる若林光は、昭和の色男。一見、凛々しく整然としているけど康子への態度は冷酷。でもだんだん、六条康子の魅力に取りつかれていく様子を見事に表現していて、めっちゃ良かった。康子が光を誘惑しているはずなのに、実は光が康子の心を弄んでたりする。そういう「罪な男」な神くんにもグッとくる。とにかく、神くんと中山美穂さんが醸し出す色気がすごい!官能的な雰囲気に、頭がクラクラした。
そして『弱法師』の神くんは、もう神くんじゃなかった。演技力が新境地の域に達してる。凄すぎた。
前半、神くんが演じる俊徳は完全に狂ってます。狂気に満ちてます。なのにすぐに壊れてしまいそうな儚さが共存している。そんな繊細な演技ができるなんて。
全盲だとわかる目の虚ろさもあまりにリアル。そして最後のひとり語りは、まるで戦火の情景が浮かぶような全身での表現。ただただ息を呑んで見つめるしかなかった。
個人的には『弱法師』で神くんが演じる俊徳があまりにも凄くて、強烈な印象が残りました。これは全人類に見てほしい。神宮寺勇太の凄さを見てほしい。キンプリ担にも、それ以外の人にも見てほしい。これを観れる人が限られているなんて、残念でしょうがない。
ここからは私の備忘も兼ねて、あらすじとともに感じたことを書き連ねます。
『葵上』感想(ネタバレあり)
葵が寝ている病室に早速、神くん演じる若林光と看護婦が入ってきます。
神くんスタイル良すぎ。顔小っ!!!
そして想像よりも威厳のある若林光だった。心なしか神くんがいつもより大きく見える。スリーピースのスーツをビシッと着こなし、昭和の色男って感じです。強く凛とした、少し渋みのある声で神くんが台詞を放っていく。とにかく神くんは声がいいねん…
そしてこの看護婦さんの演技が強烈にクセ強。「リビドォの亡霊」とか言っちゃうんだから。なんといっても六条康子の車が病院にやってくる様子を、窓の外をみながら身振り手振り口振りだけで表現する場面が素晴らしかった。
看護婦は退場し、いよいよ中山美穂演じる六条康子が登場。その第一声にハッとした。
何この艶やかさ。色気!!張りあげてるわけじゃないのに劇場を通りぬける声。心奪われてしまった。
若林光の妻である葵を恨み、六条康子の生霊が黒いドレスに身を包んで現れる。
そんな康子に、最初は葵をかばって心を閉ざす光。声を荒げて怒る様子もカッコいい。でもヨットに乗った思い出の懐古シーンあたりから、二人の立ち位置が少しずつ変わってくる。
初めは高飛車でツンとしていた六条康子は、次第に光に媚び、泣きつく。
一方で光は康子を冷たく邪険にあしらっていたが、ニヤリと意地悪そうに笑ったり、柔らかく話したり。康子に心を奪われつつも、実は康子を転がしている若林光がニクい。このあたりの心の移り変わりが秀逸でした。
懐古シーンでは、部屋の壁に湖の水面が映像で映される演出。ピアノの音楽が美しくて幻想的やった。康子と光は部屋のソファなどをヨットに見立て、一緒に乗る。
そして光は、二人が乗るヨットをふざけて揺らしたのちに。
六条康子を後ろから抱きしめたーーーー!!!!
ほとり、死亡。
いやその前に康子からキスする場面はあったんよ。あったけど、風のように一瞬やった。この抱きしめる場面のほうが何倍も破壊力があった!!
康子の首元にするりと腕を忍ばせて頬を寄せる神くん。その抱きしめ方がしっとりと湿度を帯びていて、色気がとんでもなかった。こんなことされたらどんな女も堕ちるやん…罪な男やで、若林光。
しかも原作では康子から抱きつくことになってたから、今回の演出で変えたということ。そのおかげで色気倍増したと思う。
二人の世界に浸っていたけど、葵のうめき声が聞こえると光は夢から醒めたようにベッドに駆け寄る。必死に呼び戻そうとする康子。
しっかりあたくしを見て!あなたが愛してるのは葵じゃないわ。まちがえずにあたくしを見て!あなたが愛してるのはあたくしなのよ。あたくしなのよ。
康子の悲痛な叫びが悲しい。でも光は「違う」と言い放つ。そして迎える結末がまた残酷で忘れられない。
康子が消えて茫然とした光は、ふと黒電話で康子の家に電話する。そしたらずっと寝ていたという。すると開いたドアの外から康子の声だけが聞こえてくる。手袋を忘れてほしいので取ってほしいと。
光が受話器をそのままに、ふらふらと手袋を持って外に出ていくと、受話器の向こうで康子が「もしもし?もしもし?」と聞き続ける。その声をBGMに、葵が急に苦しみベッドから倒れて死ぬ…で終わり。
怖すぎる!!!
若林光は六条康子の生霊に心を持っていかれたんだろう、と想像してしまう結末。もしかしたら光はもう戻ってこれないかもしれない。
葵が死ぬ様子も怖かった。人の執念の恐ろしさを、これでもかというくらい体感させられた。三島由紀夫凄い。
『弱法師』感想(ネタバレあり)
20分間の休憩を挟んで第二幕の『弱法師』が始まりました。
役柄を見るかぎり、神くんの実力はこの演目でこそ発揮されるはず…と思ってたので、もうめちゃくちゃ楽しみだった。
ピアノの音色とともに2組の夫妻が入ってきます。俊徳の育ての親である川島夫妻はお金持ちそう。落ち着きはらった様子。一方、生みの親である高安夫妻はどこか下町感があってそわそわしている。中山美穂演じる調停員の桜間級子は真っ白なスーツで登場。
中山美穂はさっきの康子と違い、明るく朗らかで可愛らしい声。一緒だけどどこか雰囲気が違う。
俊徳の親権をめぐって両夫妻の口論がつづいた末に桜間級子が俊徳を部屋に呼び、いよいよ神くんが舞台に。
全盲なので、サングラスをかけて白杖をついている。今度は立派なダブルスーツでした。ブルーグレーが、さっきの若林光より若々しい。話し出した声もさっきより高めで、二十歳の青年だとわかる。
中山美穂といい、神くんといい、声の使い分けにまず驚いた。二演目やるとこんな楽しみ方があるんだ。
神くん演じる俊徳は、話していくほどに様子がおかしくなっていく。
僕には絹の首枷と、木綿の狭窄衣がはめられている。そうでしょう?僕は裸かの囚人ですね。
俊徳のせわしなく身体を撫でまわす手指、ニヤニヤと上がる口角、上擦った声が舞台を一気に不穏な空気にさせる。落ち着きなくあらゆる方向に動く足。高らかな笑い声。明らかに俊徳は狂っていて、背筋がゾッとした。
まるで何かに取り憑かれたみたいだった。そこにいつもの神くんはいなかった。
凄い。神くん凄い。
事前に読んでいたセリフが、神くんの演技によって形づくられていく。狂気を帯びる。その過程にめちゃくちゃ感動した。
ふと、俊徳が煙草をねだる。
煙草を下さい。あんまり熱弁をふるったので、口の中に苔が生えちゃった。
ここ好き(笑)。狂気の沙汰を見せた後で「口の中に苔が生えちゃった」って可愛すぎん?煙草を嬉しそうにふかす俊徳はどこか幼くて、母性本能をくすぐる何かがある。こういうところが両夫妻を魅了するのかもしれない。
埒があかないことを見かねた桜間級子の提案で、舞台は級子と俊徳のふたりきりになる。ここからがいよいよ、俊徳の見せ場。思わず緊張が走った。
すると俊徳がサングラスを外したではないですか!俊徳のその目は虚で、どこを見ているかわからない。全盲の人そのものだった。
窓の外に夕日をみる級子に、俊徳が「あれはね、この世のおわりの景色なんです」と言う。
そして始まった俊徳の長台詞。
壁に炎の映像が燃えさかり、舞台の真ん中でひとり、叫ぶように語る俊徳。
全身で戦火の様子を語る。何もないのに、まるでその景色が浮かび上がるような語りだった。神くんの汗が吹き飛ぶ。
どれくらいの時間が経ったかもわからないけど、俊徳が倒れ込むまで、発せられる一言一句を息を呑んで見つめていました。ただただ圧倒されるばかり…
初めて見る神くんだった
倒れた俊徳を、級子がたすけ起こす。
君は僕から奪おうとしているんだね。この世のおわりの景色を。
俊徳の言葉にハッとした。15年間、非現実の境遇にこそアイデンティティを見出してきた俊徳の本音はこれなんだなと。生みの親と再会したことで、その非現実は終わる。そうしたらこれまでの自分がなくなってしまう。そんな不安みたいなものが感じられた。
そして最後、一番楽しみにしていた台詞。
僕ってね、……どうしてだか、誰からも愛されるんだよ。
さっきまで狂気に満ち溢れていた俊徳が、今はいじらしい。本当は、戦火で視力を失った5歳の頃からなにも変わっていないのかもしれない。ずっと前からひとりで殻に閉じこもってきたんだろう。そう思わせる弱さと諦念を、神くんは全身で表現していた。
幕が閉じ、私は放心状態。
弱法師の神くんは、とんでもなかった…
最後の挨拶
幕が閉じてから、全出演者が挨拶で出てくれた。そこにいたのはいつものキラキラスマイルな神くんだった。さっきまでの俊徳はどこへやら。それを見てホッとするやら、改めて脱帽するやら。2回目の挨拶では1階から3階までほぼ全員がスタンディングオベーション。手が痛くなるくらい拍手を送りました。
嬉しそうな神くんを見てこっちも嬉しかった。身を削るような渾身の演技をありがとうという気持ちでいっぱいだった。
会場を出ても放心状態で、駅まで魂抜けたように歩いてたと思う。お腹は多分空いてたのだけど、どちらかというとお酒を飲みたい気分だった。酔った頭の中で、舞台で感じた世界観を反芻していたかった。(結局飲まずに帰りましたが)
追伸
今回の舞台は、神くんが主演だから申し込んだわけやけど、それをきっかけに三島由紀夫という新しい世界を知れたのは私自身にとって大きな収穫だった。だって『近代能楽集』なんてこんなことでもなければ読まないよ?堅苦しいのかなと思ってたら全然そんなことなく、『葵上』も『弱法師』も、織りなされる言葉の不気味さと美しさが魅力的でした。大好きなセリフがたくさんあって書ききれない。
そして私は、ストレートプレイを観るのも今回が初めて。まさにガラスの仮面の世界だった。演者にとっては、一切のごまかしが効かない舞台。演者の努力と熱意の結晶を観ているようで、とんでもないパワーをもらった気がする。
神くんの新境地をこの目で見ることができて本当に良かったです。